ECサイトの分析とは
ECサイトの分析とは、サイト内において収集したデータをもとに売上の向上を図るものです。ECでは、実店舗での販売に比べて膨大なデータを取得でき、その内容はユーザーの動きや属性、購入商品などと多岐にわたります。
ECサイトの分析では、膨大なデータの中から必要なデータを抽出して、適切に分析をする必要があります。
データ分析の重要性
近年ではEC事業に参入する事業者の増加とともに、Web上に存在するショップの数はどんどん増えています。とくにECにおいては、商品の購入にあたって時間や立地などの制限がないため、世界中のすべてのショップが競合になります。そのため、実店舗よりもし烈な競争が繰り広げられている市場です。
そんな環境下でユーザーに商品を購入してもらうには、Web上での露出を増やしたり、ターゲット層に効率よくアプローチしたりする必要があります。そこで求められるのがデータドリブンなマーケティング戦略です。たしかなデータと根拠にもとづいて戦略を立てられなければ、EC市場において成功を収めるのは難しいでしょう。
データ分析の目的
ECサイトにおけるデータ分析の目的は、あくまでも売上を向上させることです。あらゆるデータを取得できるため、さまざまな角度からの分析業務に追われやすく、分析結果を出すことが目的になってしまうケースも少なくありませんが、最終的に売上を向上させることがゴールであると認識すべきです。
ECサイトにおけるデータ分析の手順
データ分析はECサイトを運営するうえで非常に重要な業務の一つですが、やみくもに分析していても成果にはつながりません。基本的なフローに即して施策を進めていくことが大切です。
以下では、ECサイトにおけるデータ分析の手順について解説します。
目的を明確にする
まずは、データ分析の目的を明らかにする必要があります。前述のとおり、ECサイト分析においては膨大なデータが並んでいるため、分析によってどんな目的を果たしたいかが決まっていないと、どのデータを分析すべきか悩んでしまいます。
最終的な目的が売上の向上であるのは共通していますが、その前段にある目的を明確にしておきましょう。たとえば、より多くのユニークユーザーの獲得、顧客あたりの単価の向上などです。
仮説を立てる
次に、ECサイトを運営するうえであがった仮説を洗い出します。たとえば、顧客あたりの単価の向上を目的とする場合、ロイヤリティの高い顧客はユーザー属性に特徴があるのではないか、顧客単価を上げるにはアップセルの方がクロスセルよりも効果的ではないかなどです。
仮説を一つずつ検証していくと、PDCAを回すのに時間がかかってしまうため、複数の仮説を洗い出しておくのがポイントです。スピーディに仮説検証を進めるには、さまざまな観点から仮説を立てて多角的に分析していくとよいでしょう。
分析の方法を決める
いくつか仮説があがったら、それぞれの仮説に優先度をつけて、仮説を検証するにはどんなデータが必要かを検討します。仮説を実証するためのデータを誤ってしまうと、事実とは異なる結論にたどりついてしまうリスクもあるため、データ選定のフローは慎重に実施すべきです。
なお、データ選定の際には、どんな数値がどう変化すれば目的を達成できるかという視点をもっておくとよいでしょう。
KGI・KPIを設定する
仮説検証に必要なデータがまとまれば、最後にKGIとKPIを設定します。KGIとは最終的なゴール、KPIとはKGIを達成するための中間目標です。なお、2つの指標を決める際は定量的な要素によって達成の可否がわかるようにしておくのがポイントです。
たとえば、KGIが年商10億円とすると月あたり8,350万円の売上が必要となるため、顧客単価1万円程度のビジネスでは8,350人の顧客を獲得しなければいけません。この場合、KPIは顧客単価1万円、月間顧客数8,350人となります。
さらに顧客数はユニークユーザー×コンバージョン率であることから、コンバージョン率が4%であれば約21万人のユニークユーザーが必要です。このように各要素を分解していって、KPIをたてておくことが大切です。
データを収集する
KGIとKPIを設定できれば、指標となるデータを収集して分析の準備に入ります。データを収集するうえでは、Googleアナリティクスやサーチコンソール、ヒートマップなどのツールが必要となります。それぞれのデータを正しく取得するには、どんなツールが適しているかを検討することも重要な業務の一つです。
分析結果をもとに改善を図る
収集した結果をもとに分析する際は、複数の対象を用意して比較するのがポイントです。データは単体では分析できず、期間・目標・セグメントなどの要素をもとに比較して、数値の高低や成果の有無が判明します。それぞれの要素で比較対象を用意する際は、以下を参考にするとよいでしょう。
期間 | 前月比、前年同期比 |
目標 | KGI、KPI、他社実績値 |
セグメント | 年齢、性別、デバイス、購入回数 |
データ分析における注意点
データ分析に取り組む際、ただデータを眺めていても成果にはつながりません。データを分析することが目的ではなく、分析結果からネクストアクションを決め、実行に移して改善を図っていくことが目的です。
そのためには、以下の3点を意識的に注意してみるとよいでしょう。
- 課題点を決める(見つける)
- データを比較する
- CVに近い指標から見る
以下では、それぞれのポイントについて解説します。
課題点を決める(見つける)
前述のとおり、データを分析する際は「比較」が重要となります。しかし、なんとなく比較するのではなく、あらかじめ設定した課題をもとに仮説をたてて比較すべきです。
ECサイト内で収集したデータを一つずつ見ていくのは効率が悪いため、現状のサイトが抱える課題を明確にしておき、どのデータを改善していくべきかを把握しておかなければいけません。
データを「比較」する
データを比較する際、期間・目標・セグメントの3つが主な基準となりますが、どのように比較対象を設定すればいいかがわからない方もいるのではないでしょうか。
以下では、それぞれの基準において比較すべきデータについて解説します。
1.期間比較
期間比較とは、一定の期間におけるデータを比較する方法です。前月や前年同期と比較してみると、ほぼ同様の市況においてどんな変化が生じているかを確認できます。
また、日々の平均値と比べて異常値が発生した期間について、原因を探るのも効果的です。
2.目標比較
目標比較とは、ある目標に対してどのくらい達成できているかを比較する方法です。社内の目標はもちろん、競合他社の実績値と比較してみるのも効果的です。目標比較では、自社の強みと弱みを明確化させられるため、新たな課題の発見にもつながるでしょう。
3.セグメント比較
セグメント比較とは、ユーザー属性をはじめ、さまざまな条件によって分類分けして比較する方法です。なお、セグメンテーションは、一つの条件のみや、複数の条件の組み合わせなどによってデータの特徴に変化が表れることがあります。
そのため、以下のような条件を単一、または組み合わせて、多角的に分析してみることが大切です。
- 流入経路別
- PC/スマホ
- 新規/リピート
- 年代別
- 地域別
- LP別
「CV」に近い指標から見る
分析結果をもとに改善を図る際は、コンバージョンに近い指標に注目するのがおすすめです。たとえば、集客→LP→商品ページ→カート→購入の流れでコンバージョンに至る場合、集客を増やしても購入に至るまでのどこかに課題があれば、売上の向上にはつなげにくくなります。
一方、カートから購入に至るまでの過程で離脱するユーザーへのカゴ落ち対策を講じる場合、少ない工数で大きく売上を伸ばせるケースが多い傾向です。そのため、コンバージョンに近い部分で改善を図ると、効率よく成果を出せる可能性が高いといえるでしょう。
ECサイトの分析をするうえでのポイント
ECサイトに分析においては、さまざまな角度から事実と要因を検討する必要がありますが、なかでも重点的にチェックすべきポイントがあります。
以下では、ECサイトの分析におけるポイントについて解説します。
流入経路に注目する
ユーザーの流入経路ははじめに分析すべき指標です。ECサイトの場合、広告・SNS・検索エンジンが主な流入経路になっているはずです。
すべてのユーザーのうち、それぞれの流入経路からのユーザーがどれくらいの割合なのか、コンバージョンに至ったユーザーはどの流入経路から入ってきているのかなどは、ぜひチェックしておくとよいでしょう。
また、広告の場合は参照元やクリエイティブ、SNSの場合はプラットフォーム、検索エンジンの場合は検索クエリやランディングページなども確認すべきです。
よく売れている商品をチェックする
ECサイトの場合、商品を販売して売上をあげることが最終目標です。つまり、サイト内で売れる商品を見極められるようになれば、効率よく売上を成長させられるはずです。そのため、よく売れている商品のチェックは欠かせません。
売れ筋商品を分析すると、売れている理由、誰が買っているのか、顧客はどんなニーズをもっているかなどを予測できます。いずれも次の仮説につながる材料となるため、かならずチェックしておくべき内容です。
離脱のポイントを把握する
売上の向上を目指す際、多くの事業者はユーザー数を増やしたり、販売数量を増やしたりと、増加によって目標を達成しようとします。しかし、ユーザーの離脱を減らしても売上は向上するため、離脱ポイントにも注目すべきです。
Googleアナリティクスをはじめとする分析ツールでは、ユーザーが離脱したポイントをページ単位で計測できるため、ページごとの離脱率を調査して離脱率が高いページの課題を探してみるとカゴ落ち対策につながります。
「売上=セッション数×CVR×顧客単価」を意識する
売上はセッション数・CVR・顧客単価の3つの要素から成り立っており、いずれかの要素を改善させられれば売上は向上させられます。そのため、単純に売上をあげようと考えるのではなく、3つの要素のうち、どの数値をどれくらい改善させたいのかを明確にすべきです。
売上の目標だけを立てていると、達成できなかったときに、どうして達成できなかったのかがわからなくなってしまいます。一方、売上の算出式を意識して、それぞれの要素ごとに目標値を定めておけば、達成できた部分とできなかった部分を把握できます。
ECサイトの分析でよく用いられる指標・用語
ECサイトを分析するうえでは、Webマーケティングにおいて頻出する指標や用語をおさえておく必要があります。なかにはWeb業界以外ではあまり使われない専門用語などもあるため、はじめて実務を担当する方はひと通り確認しておくのがおすすめです。
以下では、ECサイトの分析でよく用いられる指標・用語について解説します。
売上高
売上高は、ECサイトにおいてKGIに設定されることも多い指標です。最終的なゴールとも位置付けられており、さまざまなマーケティング施策は売上高の向上を目的として実施されます。売上高の計算式として「セッション数×コンバージョン率×顧客単価」はおさえておきましょう。
利益率・粗利率
利益率は、売上に対する利益の割合です。会計上の利益と区別するうえで、商品の販売における利益は粗利とも呼ばれており、ECサイトの分析においては粗利率も利益率と同じ意味で用いられます。利益率は「利益÷売上」の計算式で求められます。
PV数
PV数は、ECサイト内においてWebページが閲覧された回数です。トップページ→商品Aの商品ページ→商品Bの商品ページと遷移して離脱した場合、PV数は3とカウントされます。
セッション数
セッション数は、ユーザーがECサイトを訪れた回数です。一人のユーザーが一定期間内に複数回訪れた場合も複数カウントされます。
ツールによって一定時間の経過や日付の変更時などにセッションが切れるケースもありますが、ユーザーがECサイトを訪問してから離脱するまでで一度のセッションと考えるのが一般的です。
UU数(訪問者数)
UU数は、ECサイトを訪れたユーザーの数です。ユニークユーザー数とも呼ばれており、一人のユーザーが複数回訪問しても、UU数は1とカウントされます。サブスクリプションのように、一人のユーザーが複数回コンバージョンしないビジネスモデルにおいてはとくに重視すべき指標です。
回遊率(ページ/セッション数)
回遊率は、セッション1回あたりのPV数です。サイト内のコンテンツが充実しているほど、回遊率を向上させやすくなります。一方、回遊率が高くてもサイト全体のコンバージョン率が低い場合、ユーザーがなかなか目当ての商品にたどりつけていない可能性もあります。
CVR(コンバージョン率)
CVRは、一定期間のセッションのうち、コンバージョンに至った割合です。広告の場合、表示回数のうち、コンバージョンに至った割合を指しています。
ECモールの場合、コンバージョン率ではなく、転換率とも呼ばれています。
LTV(顧客生涯価値)
LTVは、一人の顧客が生涯のうちに貢献する利益です。特定のユーザーについて「年間の取引額×粗利率×継続年数」の計算式で算出できます。企業やブランドへの愛着が強く、LTVが高い顧客をロイヤルカスタマーと呼びます。
顧客単価(客単価)
顧客単価は、一人あたりの顧客が一度の購入で消費する金額です。売上高を構成する要素の一つに数えられており、KPIに設定されることが多い指標でもあります。
離脱率
離脱率は、すべてのセッションのうち、特定のページが最後になった割合です。セッションが100あった場合、商品Aの商品ページを最後に離脱したセッションが4であれば、当該ページの離脱率は4%です。「当該ページで離脱したセッション数÷すべてのセッション数」の計算式で求められます。
直帰率
直帰率は、すべてのセッションのうち、1ページのみを見て離脱した割合です。「直帰数÷すべてのセッション数」の計算式で求められます。
リピート率
リピート率は、商品を購入した顧客全体のうち、リピーターの割合です。リピーターが多いほど、売上が新規顧客に依存せず、安定しやすくなります。「リピート顧客数÷すべての顧客数」の計算式で求められます。
カゴ落ち率
カゴ落ち率は、ユーザーが商品をカートに入れたあとに離脱した割合です。ECサイトにおけるカゴ落ち率は平均で約7割程度となっており、カゴ落ちを防止するだけでも大きく売上を改善させられる可能性があります。
CPA
CPA(Cost Per Acquisition)は、1件のコンバージョンを獲得するためにかかるコストです。CPAが低いほど、うまく広告を運用できていることを示しています。「広告費用÷CV件数」の計算式で求められます。
ROAS
ROAS(Return On Advertising Spend)は、広告費の回収率をあらわす指標です。広告費に対してどれだけの売上が発生しているかを示しており、広告運用の効果測定においては欠かせない指標の一つです。「売上÷広告費×100」の計算式で求められます。
ROI
ROI(Return On Investment)は、投資コストに対する利益率をあらわす指標です。ROASは広告と売上の関係性を分析できるのに対し、ROIは投資コストと利益の関係性を分析できるため、事業全体の判断にも役立ちます。「(売上−売上原価)÷投資コスト×100」の計算式で求められます。
ECサイトの分析に活用できるおすすめツール
ECサイトを分析する際には、データを取得するツールの利用が必須です。ツールといっても無料で利用できるものもあり、GoogleアナリティクスやGoogleサーチコンソールなどの無料ツールは有料ツールよりも機能性に長けています。
以下では、ECサイトの分析に活用できるおすすめツールについて解説します。
Googleアナリティクス
Googleアナリティクスは、Webサイト内におけるユーザーの動きを分析できるツールです。ユニークユーザーやPVの数、コンバージョン数の分析はもちろん、Google広告やGoogleサーチコンソールとの連携も可能です。
2022年6月現在、Googleアナリティクスにはユニバーサルアナリティクス(UA)とGA4の2種類がありますが、2023年7月をもってUAはサポートを終了するとアナウンスされています。以降は、UAによるデータ取得ができなくなってしまうため、GA4の導入設定だけでもしておくとよいでしょう。
Googleサーチコンソール
Googleサーチコンソールは、検索結果画面におけるパフォーマンスを分析できるツールです。検索されたクエリや検索結果順位などを調査できます。
SEOにおいては必須ツールであるうえ、自社ECサイトに流入するユーザーのニーズ把握にも役立つため、導入しておくとよいでしょう。
ヒートマップ
ヒートマップは、Webページにおけるユーザーの動きを可視化できるツールです。それぞれのページについて、どのくらいスクロールされているか、どこがクリックされているかなどを分析できます。
多くのヒートマップは有料ですが、MicrosoftがリリースしているClarityは無料で利用できるため、まずはClarityから検討してみるのがおすすめです。ユーザーの動きを視覚的に理解できる一方、分析結果をもとに仮説や施策をたてるのは難しいため、無料ツールで分析に慣れてから有料ツールに移行するとよいでしょう。
ECサイトの分析を学べる本
ECサイトの分析には知識やノウハウが求められます。そのため、はじめて分析に携わる方やまだ分析に慣れていない方は、ECサイトやWebサイトの分析に関する本を読んで、基礎知識をおくと安心です。
以下では、ECサイトの分析を学ぶうえでおすすめの本について解説します。
現場のプロがやさしく書いたWebサイトの分析・改善の教科書
Webサイトの運営やマーケティングに関して、幅広く網羅的にまとめた書籍です。「教科書」のタイトルどおり、基本的なポイントを中心に、初心者でもわかるように実例を交えつつ解説しています。
Googleアナリティクス分析・改善のすべてがわかる本
Googleアナリティクスについて、基本的な操作はもちろん、収益アップを実現するための分析方法までわかりやすく解説している書籍です。Web分析に関する学び方を体系的に学ぶには最適な一冊です。
問題解決のためのデータ分析 EC編
実務担当者が知っておくべきEC分析をまとめた書籍です。現場に即した事例が数多く掲載されており、実際の業務においてもおおいに役立つはずです。具体的な方法論も解説しているため、実践的なノウハウをしっかり学べるでしょう。
まとめ
ECサイトにおける分析は、売上を拡大させるうえで必須となる業務です。ただやみくもに運営するのと、KGI・KPIをたててPDCAを繰り返しつつ運営するのでは、成果には大きな差が生まれます。
一方、EC分析の重要性は認識していても、どこから手をつけていいかわからない方が多いのも事実です。まずはGoogleアナリティクスやGoogleサーチコンソールなどの無料ツールを導入し、基本的な知識をつけて実践してみるとよいでしょう。