自社ECサイトとは
自社ECサイトとは、商品を販売する企業自身が運営するECサイトです。一般的には独自ドメインを取得して構築しますが、一部のカートASPではプロバイダーのサブドメインがURLになります。
モール型ECサイトとの違い
自社ECサイトに対して、複数のショップが同一のサイト上に出店するECサイトは、モール型ECサイトと呼ばれます。モール型ECサイトの代表例は、Amazonや楽天市場などです。 自社ECサイトとモール型ECサイトの主な違いは、以下のとおりです。
自社EC | モール型EC | |
---|---|---|
独自ドメイン | 設定できる | 設定できない |
商品タグの管理 | 社内で管理 | モールが管理 |
運用保守 | 社内で対応 | モールが対応 |
集客力 | ノウハウが必要 | モールが集客 |
販売手数料 | 安い | 高い |
自由度 | 高い | 低い |
価格競争 | なしでも売れる | しないと売れない |
モール型ECサイトと比較した自社ECのメリットは?
自社ECサイトとモール型ECサイトの違いは前述のとおりですが、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
以下では、自社ECサイトのメリットについて解説します。
運営コストが低く、利益率が高い
モール型ECサイトは、商品を出品するための月額費用に加えて、販売金額に応じた手数料が発生します。そのため、売上が大きくなるほど、運営コストも比例して高額になります。
一方、自社ECサイトは販売手数料が安く、利益率が高い点が特徴です。その分、自社ECサイトの開発にはコストがかかるケースが多いものの、一部のカートASPは無料でECサイトを開設できます。
ブランディングやマーケティングの自由度が高い
モール型ECサイトに出品されている商品を購入した場合、多くのユーザーはECモールで購入した商品として認識します。Amazonや楽天市場などのモール名は思い出せても、ショップやブランドの名前は覚えていないケースがほとんどです。そのため、ブランディングを意識してECサイトを運営するのであれば、自社ECサイトがおすすめです。
また、マーケティングの面においても、自社ECサイトの方が自由度に長けています。たとえば広告を出稿する場合、モール内ではモール側が用意した広告しか利用できませんが、自社ECサイトであれば自由なクリエイティブで広告を出稿できます。
そのほかにヒートマップやMAツール、CRMツールなどを自由に組み込める点も強みです。
正確なデータを取得できる
Webサイトの分析においては、Googleアナリティクスなどのツールを用いてデータを取得します。しかし、モール型ECサイトでは独自に所有しているWebサイトではないため、タグを埋め込んでデータを取得することは不可能です。
一方、自社ECサイトではトラッキングタグを入れておくことで、サイト内におけるユーザーの動きをチェックできます。たとえば、はじめに訪れたページ(ランディングページ)、コンバージョンまでの経路、離脱したページなどです。
また、アトリビューション分析を利用すると、初回来訪や再来訪時の広告チャネル、最終的に購入に至った際の広告なども測定可能です。正確なデータを取得できると、たしかな仮説にもとづいてPDCAを回せるため、効果につながりやすくなります。
購入者のデータ(リスト)が溜まる
モール型ECサイトの場合、顧客のメールアドレスが暗号化されていたり、データの保存期間が決まっていたりと、顧客データをためることが難しくなります。顧客データは企業の資産ともいえる情報であり、PDCAの材料となる要素です。
一方、自社ECサイトであれば、あらゆる顧客データを収集できます。さらにGoogleアナリティクスなどの分析ツールとあわせて活用すれば、より細かなデータを取得できたり、複数のデータを複合的に分析できたりします。
顧客データをまとめてリスト化しておけば、事業方針の転換やリブランディングなどの際にも活用できるでしょう。
価格競争を避けられる
モール型ECサイトの特徴として、ほかのショップやブランドと比較されやすい点があげられます。そのため、価格競争が激化しやすく、値下げやクーポン配信などをしないと、なかなか商品が売れない状況に陥りがちです。
一方、自社ECサイトは価格を比較されにくく、定価でも購入に結びつきやすいメリットがあります。たとえば同じ商品を販売していても、モール型ECサイトでは値引きしないと売れず、自社ECサイトでは定価で売れる可能性があります。
モール型ECサイトと比較した自社ECのデメリットは?
自社ECサイトはモール型ECサイトと比べて、さまざまなメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。とくに構築や運用の難易度、集客の難しさは、自社ECサイトの開設を検討するにあたってネックとなりやすいポイントです。
以下では、自社ECサイトのデメリットについて解説します。
集客するのが難しくマーケティングの知識が必要
モール型ECサイトは、プラットフォーム内の既存ユーザーがモール内検索から流入しやすい環境です。そのため、開設から間もないショップでも集客できる可能性が高いといえます。
しかし、自社ECサイトは戦略的にユーザーの導線を設けないと、ほとんどアクセスがない状態になってしまうおそれもあります。自社ECサイトにおいて集客を実現するには、Web広告やSNSなどを活用して流入経路をつくらなければいけません。そのため、広告運用やSNSマーケティングなど、集客のためのノウハウを理解することは必須です。
成果が出るまでに時間がかかる
自社ECサイトは、モール型ECサイトと比べて、売上をあげられるようになるまでに時間がかかります。モール型ECに比べて、初期の集客が難しいためです。
しかし、マーケティングやブランディングに注力していくと、中長期的には売上が安定しやすくなります。モール型ECサイトでは、セールをしないと商品が売れにくい状況になりやすいのに対し、自社ECサイトは初期の集客のハードルを乗り越えられれば、安定的な売上につながるでしょう。
ECサイトの構築や運用にノウハウが必要
モール型ECサイトは、出品登録をして審査に通過すればECサイトを開設できますが、自社ECサイトはみずからWebサイトを開発しなければいけません。ECシステムやCMSを利用するとしても、HTMLやCSSを理解していないと難しい作業もあります。
また、自社ECサイトの運用では、日々の更新業務も必要です。更新業務では、トップページに期間限定のセール情報を掲載したり、新商品を追加したりと、サイト上のあらゆる情報をアップデートします。
自社ECサイトの作り方
自社ECサイトの構築手順は、どんな構築方法を選ぶかによって異なります。そのため、構築方法を検討する際には、それぞれの政策フローを理解しておくことが大切です。
以下では、自社ECサイトの構築方法について、プラットフォームごとに解説します。
カートASPの場合
カートASPの場合、以下のような流れでECサイトを制作します。
- ASPへの登録
- ECサイトのデザイン作成
- 商品情報の登録
カートASPを用いた構築は非常にシンプルです。メールアドレスやパスワードなどを入力して会員登録を済ませ、デザイン作成と商品情報登録をするだけでECを開始できます。
サイトデザインもあらかじめテンプレートが用意されており、好みのデザインを選んで画像や配色を決めるだけで完成します。機能の豊富なカートASPではHTMLやCSSを用いた編集もできますが、基本的にはノーコードでデザインを組むことが可能です。
オープンソースの場合
オープンソースの場合、以下のような流れでECサイトを制作します。
- サーバーの用意
- ソフトウェアのインストール
- ECサイトの構築
- ECサイトの公開
オープンソースを用いた構築では、サーバーを用意する必要があります。自社サーバーを構築する方法もありますが、大規模なECサイトを除けばレンタルサーバーを利用するのが一般的です。
続いて、サーバー上にソフトウェアをインストールして、ソフトウェアやドメインの設定をします。その後、ECサイトを構築する作業に入りますが、オープンソースはHTMLやCSSをはじめとする知識が求められる点に注意が必要です。
また、サイトデザインにおいてはテンプレートを利用する方法のほかに、ゼロからデザインを起こしてコーディングする方法もあります。オリジナルデザインでECサイトを構築したい方におすすめです。
ECパッケージ・クラウドECの場合
ECパッケージやクラウドECの場合、以下のような流れでECサイトを構築します。
- ベンダーの選定
- 要件定義
- ECサイトの構築
- ECサイトの公開
ECパッケージやクラウドECは、基本的にシステムを開発したベンダーがECサイトを構築します。そのため、クライアント側ははじめにベンダーを選定して、ベンダーとの間で要件定義を進めます。外部の制作会社が開発を担当するため、要件定義の段階でしっかりとイメージをすりあわせておくことが大切です。
要件が固まった段階でECサイトの構築に入り、開発中はベンダーから都度デザインの確認、テストサイトの挙動チェックなどを依頼されます。
フルスクラッチの場合
フルスクラッチの場合、以下のような流れでECサイトを構築します。
- 要件定義
- ECサイトの構築
- ECサイトの開発
フルスクラッチ開発においては、インハウスで開発するケース、制作会社にアウトソーシングするケースがあります。制作会社を利用するのであれば、ECパッケージと同様、要件定義の前にベンダー選定が入ると考えておきましょう。
なお、フルスクラッチではゼロベースで開発するため、既存ソフトウェアをベースに開発するときよりも慎重に要件を定義しておくことが重要です。
自社ECサイトの構築にかかる費用目安
前述のとおり、自社ECサイトを構築する方法はいくつかあります。そのなかから自社に適した構築方法を選ぶのに基準となるのが予算です。
構築方法によって開発・運用にかかる費用が大きく異なるため、まずはそれぞれの方法ごとに構築費用の目安を知っておくとよいでしょう。
構築方法 | カートASP | オープンソース | ECパッケージ | クラウドEC | フルスクラッチ |
---|---|---|---|---|---|
初期費用 | 無料~10万円 | 無料~300万円 | 300万円~ | 300万円~ | 1,000万円~ |
月額費用 | 無料~5万円 | 5~30万円 | 5~30万円 | 5~30万円 | 30万円~ |
販売手数料 | サービスやプランによる | なし | なし | なし | なし |
【2022年版】自社ECサイトの売上高ランキング
一般的に複数のブランドの商品を取り扱うECモールに比べて、自社ECサイトは単独で商品を販売するため、売上が少なくなります。しかし、大手ブランドでは自社ECサイトにもかかわらず、ECモールを上回るほどの売上高を記録しているECサイトもあります。 以下は、2022年の日本ネット経済新聞による調査結果です。
アマゾンジャパン
アマゾンジャパンは、2兆1,652億円の売上高で1位となりました。前年比でも27.9%の増収を実現しており、コロナ禍においても着実に売上を伸ばしています。 アマゾンプライム会員向けの即日配送やオンデマンドサービス、電子書籍などにもサービスの幅を広げています。
アスクル
アスクルは、4,137億円の売上高で2位となりました。前年比5.4%の増収となっており、ほぼ横ばいながらも成長傾向を示しています。 取り扱い商品をオフィス用品に絞っており、ニッチな需要を独占する戦略が特徴的です。
ジャパネットたかた
ジャパネットたかたは、2,405億円の売上高で3位となりました。前年比15.8%の増収を記録しており、順調に売上を成長させています。 ECサイト上には、テレビショッピングで培ったノウハウをもとにした商品紹介動画を掲載して、コンバージョン率を高めています。
資生堂
資生堂は、2,302億円の売上高で4位となりました。前年比45.0%の増収となっており、大幅に成長しています。 ターゲットによってブランドを分けて展開しており、商品ごとのセグメンテーションとターゲティングがなされています。
ヨドバシカメラ
ヨドバシカメラは、2,221億円の売上高で5位となりました。前年比60.3%の増収となっており、圧倒的な成長を記録しています。 大型家電は店舗で購入しても持ち帰りが難しいため、ECの利便性が活かしやすい商材です。
自社ECサイトの成功事例
モール型ECサイトと自社ECサイトでは、販売戦略が大きく異なります。とくに自社ECサイトの場合、みずから集客の導線を設けなければいけないため、戦略策定が非常にシビアといえるでしょう。 そのため、他社の成功事例をもとに、自社に適した戦略を検討してみるのはおすすめの方法です。 以下では、自社ECサイトの成功事例について紹介します。
ユニクロ
ユニクロは、オムニチャネル戦略によって成功を収めています。オムニチャネルとは、実店舗・ECサイト・アプリなどの複数チャネルを連携させる施策です。 具体的には、店舗のバーコードからECサイトのレビューを表示したり、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ったりできるサービスを提供しています。オムニチャネル戦略は、顧客にとっての利便性を高められるだけでなく、チャネルを超えて顧客のデータを取得できる点もメリットです。
ニューバランス
ニューバランスは、顧客体験を意識したサービスによって成功を収めています。具体的には、顧客から寄せられた意見への回答を公開したり、倉庫にEC専任スタッフを置いてピッキングの効率を向上させたりしています。いずれも顧客満足度につながる部分のため、リピーターの獲得にも役立つはずです。
石けん百貨
石けん百貨は、情報発信により集客力を高めて成功を収めています。具体的には、複数のオウンドメディアの運営です。メディアとECサイトを一体化させるメディアコマースは、近年注目されており、SEOに強いECサイトをつくるうえで非常に効果的です。
職人醬油
職人醤油は、情報発信によってブランディングをして成功を収めています。具体的には、ECサイト内で全国の醤油職人の顔写真や想いを紹介しており、こだわった商品を販売しているサイトとしてのイメージを確立しています。
NOCE
NOCEは、商品のイメージを明確に伝えて成功を収めています。具体的には、さまざまなルームコーディネートを掲載しており、実際に家具を部屋に置いたイメージを示しています。 また、掲載されているコーディネートをワンクリックでまとめ買いできるようにしている点も特徴的です。
まとめ
自社ECサイトは、モール型ECサイトとは大きく異なり、独自のメリット・デメリットをもっています。そのため、ECサイトを構築する際には、どちらの構築方法が適しているかを検討することが重要です。
また、自社ECサイトにおいて売上をあげるうえでは、集客のための施策や戦略が必須です。EC運営のノウハウや他社の事例をもとに、さまざまな仮説を立てて取り組めるとよいでしょう。